日本気象協会/プロジェクト3年間の集大成 気象情報の活用で省エネ物流を実現 グリーン物流(環境) 2023.06.17 日本気象協会、プロジェクト3年間の集大成 気象情報の活用で省エネ物流を実現! ~新たな連携により、製造業での予測誤差がほぼゼロに~ 一般財団法人 日本気象協会(本社:東京都豊島区、会長:石川 裕己 、以下「日本気象協会」)は、天気予報で物流を変える取り組みとして2014年度から実施していた「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト(以下「本プロジェクト」)」の最終報告を発表します。本プロジェクトでは食品ロスの削減と、返品・返送、回収、廃棄、リサイクルなどで不要に発生している二酸化炭素の削減を目指して活動してきました。2016年度が3カ年計画の最終年度です。 なお、本プロジェクトは経済産業省の平成26~28年度(2014~2016年度)の「次世代物流システム構築事業費補助金」(注1)の採択事業です。 プロジェクト最終年度(2016年度)の成果概要 ◆成果1:気象情報を使った高精度な需要予測によりCPFR( 注2)を実現し、製造業での予測誤差がほぼゼロに 製造業(相模屋食料)と小売業のCPFRを実施し、◎製造業での豆腐の受注生産を実現→ 全国換算で豆腐約5,840トンの食品ロス削減が期待される ◆成果2:気象情報を使った需要予測の利用範囲の拡大 <Mizkan>シーズン終わりの冷やし中華つゆの最終生産量を調整し、◎150ml商品の最終在庫:約20%削減(2015年比)※取り組み初年度からは約35%削減(2014年比) ◎360ml商品の最終在庫:約90%削減(2015年比)※2016年度からの新たな対象商品 <ネスレ日本、川崎近海汽船>モーダルシフト(注3)をさらに推進し、◎貨物1トンあたりのCO2:54%削減(2014年比) 2016年度の成果詳細(1) CPFRの実証実験による成果 2年目(2015年度)に行った「情報の個社利用」の応用として、2016年度は「情報の連携利用」を目的にCPFRの実証実験を行い、さらに予測誤差を削減できました。実証実験では、相模屋食料株式会社(本社:群馬県前橋市)が販売する「なめらか木綿」という名称の豆腐を対象に、人工知能と気象予測を利用し、特定の小売店での需要予測を高度化しました。 【需要予測の高度化による効果】・小売業:発注を一日早めることが可能に・製造業:「見込み生産」から「受注生産」へ生産方式を変更することが可能に 【CPFRの結果】・小売業:発注を一日早めても、機会ロス・食品ロスは発生せず・製造業:注文を受けてから生産を開始することで、予測誤差をほぼゼロに 実証実験の結果、CPFRのオペレーションは実施可能であることが示されました。豆腐の消費量は年間146万トン(※出典1)で、製造業の余剰生産率は0.4%(※出典2)であることから、CPFRを全国で生産されている豆腐へ適用することによって、豆腐の食品ロス約5,840トンをほぼゼロにすることが計算上可能になります。 商品 実証実験の成果 豆腐 製造業における予測誤差をほぼゼロ全国換算で約5,840トンの食品ロス削減が期待される (2)気象情報を使った需要予測の利用範囲の拡大2015年度に実証実験を行った企業では、気象によるオペレーション変革の効果が認識され、利用範囲を拡大し、下記成果をあげました。 ①「冷やし中華つゆ」の成果株式会社Mizkan(本社:愛知県半田市)では2015年度から日本気象協会の需要予測をもとに冷やし中華つゆ(150ml商品)の最終生産量を実際に調整しました。2015年度の実証実験で約20%(2014年比)の在庫を削減した150ml商品ではさらに2015年比で約20%、2016年度から新たに生産調整の対象となった360mlの冷やし中華つゆでは約90%(2015年比)の最終在庫を削減に成功しました。 これらの成果は、日本気象協会からの需要予測情報の精度向上・配信の効果(外的要因)だけでなく、各企業の担当者の「気象は需要予測に有用である」という意識の変化(内的要因)もあり、需給精度向上へ向けた強い意欲により達成されています。 商品 実証実験の成果 冷やし中華つゆ(150ml) 最終在庫:約20%削減(2015年比) ※取り組み初年度(2014年比)からは約35%削減 冷やし中華つゆ(360ml) 最終在庫:約90%削減(2015年比) ②モーダルシフトによる成果 2000年代当初からモーダルシフトを推進してきたネスレ日本株式会社(本社:神戸市)と内航船を運航する川崎近海汽船株式会社(本社:東京都千代田区)と日本気象協会の3社で実施したモーダルシフトの実証実験では、2015年度は貨物1トンあたりの二酸化炭素排出量を約48%削減し、2016年度にはさらに6%ダウンの約54%削減することができました。日本気象協会では「最適航路情報」や2014年度に開発した「2週間先気温予測情報」の提供をしています。また、ネスレ日本では2016年度には日本気象協会から提供した「中長期予測情報」を利用し、生産量の需給調整を行いました。 商品 実証実験の成果 ペットボトルコーヒー モーダルシフトのさらなる推進貨物1トンあたりCO2約54%削減(2014年比)需給調整への利用に展開 その他の成果 (1)需要予測モデルの高度化の成果2016年度は、2015年度に引き続き人工知能(AI)技術を用いてSNS、POS、気象の各データの解析を行い、需要予測モデルの高度化を進めました。その結果、以下の成果が得られました。 ・ 人工知能を使い、気象パターンを「寒い」「肌寒い」「快適」「暖かい」に分けて売り上げを分析した結果、気象パターンごとの売れ筋商品を把握することが可能に 例(2月の精肉):気温が上がると厚切りの焼肉(炒め物)用の肉が売れ、 気温が下がると薄切りの鍋用の肉が売れる ・人工知能に価格・曜日・気象要件を取り入れて機械学習をさせることで、売り上げの推定精度(相関係数 注4)が0.7から0.87まで向上しました。その結果、日配品の需要予測や日次の来店客数予測の精度が向上しました。 (2)「eco×ロジ(えころじ)」マークの制定日本気象協会が実施する本プロジェクトへ賛同いただいた企業・団体が「商品需要予測の情報をもとに生産、配送、在庫管理等を行っている」ことの意思を表明するためのマークを制定しました。 今後の方針 日本気象協会は2017年4月1日から本プロジェクトを「商品需要予測事業」として正式に事業を開始しました。今後は、社会活動活性化と持続可能な開発目標(SDGs 注5)の実現に向けて、食品業界をはじめとした「気象によるリスク」に直面するあらゆる業界を対象に、気象情報をもとにした商品需要予測情報の提供および問題解決を支援するコンサルティングサービスを提供し、企業の「働き方改革」や「生産性向上」、「社会的責任(CSR)」を支援します。 注1「次世代物流システム構築事業費補助金」本事業は経済産業省の補助事業で、補助事業者は公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会、間接補助事業者は一般財団法人 日本気象協会などです。わが国の最終エネルギー消費量の約2割を占める運輸部門の省エネルギー対策を進めるため、物流部門などで効率化に向けた先行事業を行い、その成果を幅広く展開することで抜本的な省エネルギー対策を進めることを目的にしています。 注2 CPFRCollaborative Planning, Forecasting and Replenishmentの略で、メーカー(製)、卸売事業者(配)、小売事業社(販)が相互に協力して、「商品の企画・販売計画」「需要予測」「在庫補充」を協働して行い、欠品防止と在庫削減を両立させることを目指す取り組み。 注3 モーダルシフト二酸化炭素排出量の削減や物流の効率化などの観点から、自動車(トラック)から貨物鉄道や海運へ輸送手段を転換すること。 注4 相関係数2つの値の関係の強さを示す数値。-1~1の値となり、一般的に相関係数が 0.7 以上は強い関係があるとされている。 注5 SDGs:Sustainable Development Goalsの略。2015年9月の国連サミットで採択した持続可能な開発のための2030アジェンダ に盛り込まれた17の目標のこと。本事業では下記2つの目標の実現に向けて取り組みます。 <目標12> 持続可能な消費と生産のパターンを確保する <目標13> 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る ※出典1 農林水産省資料: http://www.maff.go.jp/j/study/daizu_gensanti/01/pdf/data1.pdf※出典2 農林水産省資料: http://www.jora.jp/26_syokuhin_sien/pdf/150317_19_01syoku-loss-sakugen.pdf 以上 資料 ◆背景 食品業界では、「食品ロス」が大きな課題となっています。日本の「食品ロス」は世界の食料援助量の約2倍ともいわれ、その内訳はメーカー(製)で42.7%、卸売事業社(配)で3.8%、小売事業者(販)で17.5%。「食品ロス」の半数以上は、家庭ではなく流通の過程で発生しています。また年間の返品額は約1691億円におよび、返品・返送・廃棄の過程でも二酸化炭素が発生しています。気象のビッグデータと商品データをかけあわせれば、この「もったいない」は減らせます。 そこで、本プロジェクトでは、日本気象協会が気象情報に加えてPOSデータなどのビッグデータも解析し、高度な需要予測を行った上で製・配・販の各社に提供しました。気象情報には、「アンサンブル(集団)予測」(※)を用いた長期予測等も活用し、需要予測の精度をさらに向上させています。これにより、廃棄や返品等を減少させ、不要に発生している二酸化炭素を削減することを目指して活動してきました。 ※「アンサンブル予測」ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用意するなどして多数の予報を行い、その平均やばらつきの程度といった統計的な性質を利用して最も起こりやすい現象を予報する手法です。 ◆プロジェクトの実施体制(2017年2月28日現在) ※五十音順実施主体:一般財団法人 日本気象協会≪メーカー≫株式会社伊藤園(本社:東京都渋谷区)キッコーマン食品株式会社(本社:東京都港区)相模屋食料株式会社(本社:群馬県前橋市)ネスレ日本株式会社(本社:神戸市)ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社(本社:名古屋市)株式会社Mizkan(本社:愛知県半田市) ≪卸売事業者≫川崎近海汽船株式会社(本社:東京都千代田区)国分グループ本社株式会社(本社:東京都中央区) ≪関連事業者≫株式会社あおぞら銀行(本店:東京都千代田区)株式会社アットテーブル(本社:東京都品川区)イーシームズ株式会社(本社:大阪市中央区)インフォマティカ・ジャパン株式会社(本社:東京都港区)株式会社内田洋行(本社:東京都中央区)サントリービジネスエキスパート株式会社(本店:東京都港区)株式会社サン・プラニング・システムズ(本社:東京都中央区)株式会社シグマクシス(本社:東京都港区)株式会社チェンジ(本社:東京都港区)株式会社 Insight Tech(本社:東京都新宿区)株式会社リンク(本社:大阪市北区) ≪団体≫一般社団法人 新日本スーパーマーケット協会(事務局:東京都千代田区) ≪小売事業者≫株式会社カメガヤ(本社:横浜市)株式会社京王ストア(本社:東京都多摩市)国分グローサーズチェーン株式会社(本社:東京都中央区)株式会社ココカラファインヘルスケア(本社:横浜市)株式会社タイヨー(本部:茨城県神栖市)株式会社バローホールディングス(本部:岐阜県多治見市)株式会社 マルエイ(本社:千葉県市原市)株式会社ローソン(本社:東京都品川区) ≪学術研究機関≫国立研究開発法人産業技術総合研究所(東京本部:東京都千代田区)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(東京都千代田区)早稲田大学(東京都新宿区) 委員会には下記の学識経験者が加わりました学識経験者:立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 客員教授(前特任教授)張 輝氏気象庁地球環境・海洋部気候情報課 気候リスク対策官経田 正幸氏テクニカルソリューションズ株式会社 代表取締役社長勝呂 隆男氏東京都市大学メディア情報学部情報システム学科 教授大谷 紀子氏