目次 2026年以降のEC物流スタンダード。3つの新法が変える「荷主と物流のパートナーシップ」 今さら聞けない「物流3法」の基礎知識 物流のブラックボックス化を終わらせる。改正物流法が突きつける「経営の責任」 取引の歪みを正す「取適法」と、ブランドを守る「公正な対価」 トラック適正化2法がもたらす「安さ競争」からの脱却 EC物流と荷主企業に求められる「次の一手」:BPOという戦略的選択 まとめ ― ルール変更は「共創」へのポジティブな転換点 2026年以降のEC物流スタンダード。3つの新法が変える「荷主と物流のパートナーシップ」 物流業界はいま、静かながらも戦後最大級とも言える構造転換の真っただ中にあります。イー・ロジットが考えるのは、物流業界の構造転換の中心にあるのが、**「改正物流法(改正物流効率化法)」「中小受託取引適正化法(取適法)」、そして「トラック適正化2法」**という一連の法制度の3つだと言うことです。 これらは単なる規制の強化ではありません。高度経済成長期から続いてきた「安価で便利な物流」が限界を迎えたことを社会が認め、曖昧にされてきた物流取引の前提条件を整理し直す、いわば「物流の新常識」へのアップデートです。本コラムでは、これら3つの法律が何を目指し、EC物流や荷主企業にどのような影響を与えるのか、そして企業はこの変革期をどう生き抜くべきかを深掘りしていきます。 今さら聞けない「物流3法」の基礎知識 今回の構造転換を理解するために、まずは3つの柱となる法律のポイントを整理しておきましょう。 ① 改正物流法(物流効率化法・貨物自動車運送事業法の改正) 目的: 物流の停滞(2024年問題)を回避し、物流の効率化を「義務」として促進すること。 対象: 荷主企業(製造業、小売・EC等)および物流事業者。 重要ポイント: 一定規模以上の荷主に対し、「物流統括管理者(CLO)」の選任や、物流効率化の中長期計画の作成を義務化しました。荷待ち時間の削減や積載率向上の責任が、現場だけでなく「経営層」に課されるのが最大の特徴です。 ② 取適法(中小受託取引適正化法 / フリーランス・事業者間取引適正化法) 目的: 発注者側の一方的な都合による不当な取引を防止し、受託者の権利を守ること。 対象: 特定業務委託事業者(発注者)と受託者。 重要ポイント: 物流現場で頻発していた「運賃の後出し変更」や「契約外の付帯作業の強要(無料での棚入れやラベル貼りなど)」を厳しく制限します。取引条件の書面・電子的な明示が義務付けられ、公正な対価の支払いが求められます。 ③ トラック適正化2法(貨物自動車運送事業法の一部改正等) 目的: トラック運送業界の健全化と、ドライバーの労働条件の改善。 対象: 運送事業者および荷主。 重要ポイント: 適正な運賃の収受を後押しする「標準的な運賃」制度の拡充や、再委託構造(下請け構造)の可視化を推進します。無理な価格競争を排除し、安全にモノが運べる環境を維持するための法律です。 物流のブラックボックス化を終わらせる。改正物流法が突きつける「経営の責任」 改正物流法が社会に突きつけた最大のメッセージは、**「物流はもはや現場の努力だけで支えるものではない」**という点です。 現場の疲弊を放置できない社会背景 これまで、日本の物流は現場の過剰なサービス精神と長時間労働によって支えられてきました。しかし、生産年齢人口の減少とドライバー不足が深刻化する中で、荷待ち時間の長期化、積載率の低下、不透明な契約内容といった課題を放置することは、物理的に「モノが運べなくなる」リスクに直結します。 これまで、物流部門は「コストセンター」として見なされ、いかに安く、いかに現場を回すかという視点が強くなりがちでした。しかし、荷主企業が自社の出荷都合だけを優先し、配送車両を長時間拘束し続けることは、運送事業者の経営を圧迫するだけでなく、社会全体の輸送能力を削ぐ行為となります。改正法は、この「外部不経済」を解消するため、荷主に対しても明確な責任を求めています。 CLO選任義務が意味するもの 今回の改正法で最も注目すべきは、一定規模以上の荷主(特定荷主)に対して課される**「物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)」の選任義務**です。これは、物流を単なる「配送コスト」や「購買の延長」として捉えるのではなく、役員級の権限を持つ人間が「経営課題」として責任を持つことを国が求めているのです。 CLOは、中長期的な計画に基づき、荷待ち時間の削減や積載効率の向上、さらにはモーダルシフトの検討といった効率化措置を推進しなければなりません。EC事業者にとっても、自社のキャンペーン設定や配送条件が物流現場にどのような負荷をかけているかを経営レベルで可視化し、改善することが法的・社会的な責務となったのです。これは、物流をブラックボックスのまま扱う時代の終焉を意味しています。 取引の歪みを正す「取適法」と、ブランドを守る「公正な対価」 次に、2024年11月に施行された「中小受託取引適正化法(取適法)」の影響です。これは物流業界に限定された法律ではありませんが、多重下請け構造が根深い物流現場において、非常に大きな意味を持ちます。 「後出しジャンケン」の禁止 物流の現場では、「急な配送指示の追加」や「契約外の付帯作業(棚入れ、ラベル貼り、検品など)」が、適正な報酬なしに行われるケースが少なくありませんでした。荷主側は「サービスの一環」と考えがちですが、これらは受託事業者のコストを確実に増大させます。 取適法は、こうした受発注における力関係の歪みを是正し、取引条件の書面(または電子メール等)による明示、支払期日の適正化(60日以内)、不当な経済上の利益の提供要請の禁止などを定めています。これまで口約束や「慣習」で済まされていた部分を明確な契約ベースへと引き上げることで、物流の持続可能性を担保しようとしています。 EC事業者の「社会的責任」としての適正取引 ECサイトを利用する消費者の意識は劇的に変化しています。今や消費者は単に「安い・早い」だけでなく、「その企業がサステナブルであるか」「従業員やパートナーを大切にしているか」という視点でブランドを選びます。 物流パートナーに対して不当な低単価や無理な条件を強いていることが露呈すれば、それは重大なレピュテーションリスク(評判リスク)となります。逆に、適正な対価を支払い、効率的な物流を共に構築している姿勢は、企業の誠実さを証明する強力なブランディング要素となります。取適法への遵守は、単なる法的義務ではなく、ブランドの信頼性を守るための投資なのです。 トラック適正化2法がもたらす「安さ競争」からの脱却 トラック運送業界の健全化を目的とした「トラック適正化2法(貨物自動車運送事業法の一部改正など)」は、輸送力の持続可能性を担保するための強力な枠組みです。 「運賃」の考え方が変わる これまでの物流市場では、熾烈な価格競争によって、運賃が適正原価を割り込むことも珍しくありませんでした。しかし、燃料費の高騰や人件費の上昇が続く中、安さだけを追求する取引は運送事業者の撤退を招き、結果として荷主が「運びたくても運べない」状況を作り出します。 トラック適正化2法では、適正な運賃の収受を促す「標準的な運賃」制度の拡充や、多重下請け構造の是正が盛り込まれています。特に、実運送体制の管理(誰が実際にハンドルを握っているか)を把握し、無理な運行管理が行われていないかを注視することが荷主にも求められます。 持続可能な輸送を前提とする時代へ EC物流においても、突発的なセール時の波動対応や短納期を実現するためには、基盤となる輸送力が安定していなければなりません。トラック適正化2法が目指すのは、「今さえ回ればいい物流」ではなく、人材が定着し、安全と品質が維持される輸送体制です。 物流コストは「削るべき無駄」から「事業継続のために適切に支払うべきインフラ維持費」へと、その定義を変えることになります。このマインドチェンジこそが、新時代のEC物流を勝ち抜く鍵となります。 EC物流と荷主企業に求められる「次の一手」:BPOという戦略的選択 制度対応が高度化・複雑化する中で、荷主企業がすべてを自社で管理し続けることは、現実的ではなくなりつつあります。 すべてを自社で抱えるリスク CLOの選任、運行管理の監視、契約の電子化、効率化計画の策定と実施。これらを専任の部署がないまま場当たり的に対応すれば、現場負担は増す一方です。また、法改正への理解不足から、意図せず法令違反を犯してしまうリスクも否定できません。 特に成長著しいEC事業者にとって、物流の「新常識」への対応は、本来注力すべき商品開発やマーケティングといったフロント業務のリソースを激しく奪いかねません。 物流パートナー(BPO)という解決策 こうした環境下で改めて注目されているのが、EC物流に特化した物流BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用です。 単なる「発送代行」ではなく、法制度の変化を熟知し、データに基づく改善提案ができるパートナーと組むことで、荷主企業は以下のようなメリットを享受できます。 コンプライアンスの担保: 最新の改正法や取適法に準拠した契約・運用体制を、自社の学習コストゼロで即座に構築できます。 変動費化と専門知見の活用: 自社でCLOを育成・雇用するコストを抑えつつ、プロの知見による物流効率化を享受できます。 顧客体験(CX)の向上: 制度変化に左右されない安定した配送品質を維持することで、顧客満足度を向上させ、事業の拡張性を高めることができます。 物流を「外出し」にするのではなく、専門家を「自社の物流部門の延長」としてチームに組み込む。この「共創」の姿勢こそが、複雑化する時代における正解の一つです。 まとめ ― ルール変更は「共創」へのポジティブな転換点 改正物流法、取適法、トラック適正化2法という「物流3法」は、一見すると企業にとって「負担」に見えるかもしれません。しかし、我々、イー・ロジットは、その本質は、「無理が前提だった構造をリセットし、物流を強靭なインフラとして再構築するための基盤づくり」だと主張しています。 EC物流は、スピードや安さだけで差別化できる時代を終え、いかに透明性を持ち、持続可能な形で商品を届けられるかという「信頼」が問われるフェーズに入りました。このルール変更を「脅威」として守りに入るのではなく、新しいルールを「活かす」ことで、他社に先んじて強固な供給網を整えるチャンスと捉えるべきです。 イー・ロジットは、制度変化を前提としたEC物流パートナーとして、企業が安心して本来の事業成長に邁進できる体制づくりを進めています。物流のルールが変わる今こそ、現場任せにしない「経営としての物流戦略」を共に描きませんか。 イー・ロジットサービスはこちら 関連記事 「波動対応」を設計せよ。ECモールで勝ち残るための新・物流戦略 投資を最小限に、効果を最大限に。中小ECのための「地に足のついた」物流DXの実装ガイド 「契約書」だけではEC物流は守れない!適正原価時代に生き残るためのパートナーシップとは 送料無料の終焉?「適正原価時代」を勝ち抜くためのEC物流価値再定義