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【物流AIシリーズ】EC物流の要「ラストワンマイル」をAIが拓く未来

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目次

  1. EC物流の要「ラストワンマイル」をAIが拓く未来
  2. 課題解決と持続可能な社会への貢献
  3. ラストワンマイルが抱える多角的な課題
  4. AIと最新技術が拓くラストワンマイルの未来
  5. ラストワンマイルの未来と持続可能性
  6. 技術の進化とプラットフォーム化

EC物流の要「ラストワンマイル」をAIが拓く未来

課題解決と持続可能な社会への貢献

近年、インターネット通販(EC)市場の拡大は私たちの生活に計り知れない利便性をもたらしました。欲しいものがボタン一つで手に入り、翌日には自宅に届く—そんな当たり前になった購買体験の裏側で、物流業界は「ラストワンマイル」という大きな課題と向き合っています。この「ラストワンマイル」とは、物流拠点から最終的なエンドユーザー(消費者)の手に商品が届くまでの「最後の区間」を指し、その重要性はEC市場の成長とともに増すばかりです。

ラストワンマイルが抱える多角的な課題

ラストワンマイル配送は、EC市場の成長を支える一方で、多くの深刻な課題を抱えています。

①再配達問題:経済的、身体的、環境的負担
不在による再配達は、物流業界にとって長年の課題です。EC市場の拡大に伴い宅配便の取扱個数は増加し続け、それに比例して再配達も増加の一途をたどっています。国土交通省の調査によると、2019年4月の宅配便再配達率は全国平均で約16%に上り、約6億8,912万個が再配達となったとされています。2023年4月時点でも再配達率は11.4%と依然として高い水準です。 この再配達は、物流会社に大きな経済的負担をかけます。燃料費や人件費といった追加コストが発生し、企業の収益を圧迫する要因となります。また、ドライバーにとっては時間外労働や過重労働、精神的な負担につながり、離職率の増加にも影響します。さらに、トラックが何度も走行することでCO2排出量が増加し、地球温暖化を加速させる要因にもなるなど、環境問題にも悪影響を及ぼしています。再配達にかかる社会的損失は年間約3,700億円、CO2排出量は年間約42万トンに上るという試算もあります。

②深刻な人手不足とコスト増
業界全体の疲弊 EC市場の拡大で宅配便の取扱個数が増加する一方で、物流業界ではドライバー不足が深刻化しています。厚生労働省の調査では、運輸業の労働者不足の割合が全産業平均よりも15%も高い56%に達していると報告されています。長時間労働や低賃金といった業界特有のイメージ、体力的な負担の大きい作業、若年層の定着率の低さ、そして高齢化の進行が主な要因です。特に2024年からはドライバーの時間外労働に上限が設けられ(いわゆる2024年問題)、人手不足はさらに加速すると懸念されています。 再配達や人手不足は、物流コストの増加に直結します。燃料費の高騰や環境規制強化による車両買い替え費用もコスト増の要因であり、EC事業者が「送料無料」を打ち出す中で、物流会社はコストを価格に転嫁しにくい状況にあります。これにより、物流会社の収益が悪化し、サービスの質の低下やさらなる人手不足を招く悪循環に陥る可能性も指摘されています。

③トラック積載効率の低下
多品種小ロット配送の現実 ECサイトで購入される商品は多種多様であり、少量・小ロットの品物を配送する必要があるため、トラックの積載効率が悪化しています。1993年には約55%だったトラック積載効率が、近年では40%前後まで低下しており、ECの普及がその一因とされています

AIと最新技術が拓くラストワンマイルの未来

これらの課題を解決するため、物流業界では様々な取り組みが進行しており、特にAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった先端技術の活用が注目されています。政府も2030年までに「完全無人輸送、配送サービス」の実現に向けたロードマップを発表しており、その目標にはAIによる無人化の実現が掲げられています。

①再配達削減へのAI・IoT活用 再配達を減らすためには、消費者が不在時でも荷物を受け取れる選択肢を増やすことが効果的です。
1)置き配・宅配ボックスの普及
玄関前や宅配ボックスなど指定された場所に荷物を置く「置き配」は再配達を減らす有効な手段であり、集合住宅やオフィスビルへの宅配ボックス設置も進められています。パナソニックはIoT対応のスマート宅配ボックスを開発し、再配達率の低下が報告されています。

2)AIによる配送予測・ルート最適化
AIを活用して過去の配送データから最適な配送ルートを導き出したり、天候や交通状況を考慮したリアルタイムのルート変更が可能になります。楽天グループはAIアルゴリズムを活用した配送予測システムで再配達率削減に成功し、日立製作所もAI・IoTを活用した「配送最適化サービス」を提供しています。ソフトバンクとヤマト運輸はAIを活用した「パーソナライズド配送」の実証実験を行い、ウーバーイーツも機械学習を活用した配送需要予測システムを導入しています。

3)多様な受け取りオプション
コンビニエンスストアや駅構内への発送・受取ボックスの設置、宅配アプリを通じて顧客が受け取り方法(対面、置き配、宅配ロッカー、コンビニなど)を選択できるサービスの提供 も、再配達率の抑制に繋がります。

②人手不足解消へのテクノロジー導入
1)ドローン配送
山間部や離島など、配送が困難な地域へのドローン活用が進められており、日本郵便は離島でのドローン配送実験で配送時間を最大80%短縮することに成功しました。将来的には都市部での活用も期待されています。

2)配送ロボット
自動運転技術を活用した配送ロボットは、人手不足の解消や配送効率の向上に貢献すると期待されています。セブン-イレブン・ジャパンは自動配送ロボットの実証実験を開始し、人手不足解消と24時間配送の実現を目指しています。

3)倉庫内自動化(ピッキングロボット)
倉庫業務における人手不足解消にもAIが貢献しています。ニトリが導入したピッキングロボット「バトラー」は、AIが出荷頻度に応じて最適なラック配置を算出し、ロボットが棚ごと運んでくることで、ピッキング効率を人力の4.2倍に向上させました。

4)物流DXと労働環境整備
AI点呼ロボットによるドライバー管理負荷の軽減、自動配車システムによる配送業務の標準化、GPSによるトラックの動態管理、AI-OCRによる入力作業効率化、マッチングサービスによる共同輸送機会の創出など、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)は業務効率化と生産性向上に寄与します。また、ドライバーの待遇改善(基本給の底上げ、賞与、福利厚生、柔軟な働き方)も重要であり、専門の人材紹介サービスの活用やアウトソーシングも有効な手段です。

積載効率向上と共同配送 AIを活用してトラックの積載量を計算する動きも出ており、これにより運行本数を大幅に減らした企業も存在します。また、複数の運送会社が連携し、同じ地域への荷物をまとめて配送する「共同配送」は、トラックの運行台数を減らし効率化を図ることで、CO2排出量の削減やドライバー不足の緩和にも繋がります

ラストワンマイルの未来と持続可能性

EC市場の成長は今後も続き、ラストワンマイル配送はさらにその重要性を増していくでしょう。AIやIoTといったデジタル技術の発展により、ラストワンマイルの革新は新たな段階を迎えています。

①パーソナライズされた配送
顧客一人ひとりのライフスタイルや配送履歴をAIが分析し、最適な配送ルートや時間帯を予測することで、再配達のリスクを低減し、顧客満足度を向上させる「個客対応」が進められています。荷物の位置情報や配送状況をリアルタイムで顧客と共有するIoTデバイスの活用も、顧客の安心感と問い合わせ削減に貢献します。

②サステナビリティへの貢献
再配達の削減や共同配送の推進、さらには日本郵便が2030年度までに集配用車両の100%電気自動車化を目指す など、環境負荷の低減に向けた取り組みも加速しています。消費者の環境意識の高まりを受け、環境負荷の少ない配送方法を選択した顧客にポイントを付与するプログラム(例:イオンの「グリーンデリバリー」)も導入されています。

技術の進化とプラットフォーム化

将来的には、自動運転技術を活用した無人配送車やドローンによる24時間配送の実現、ブロックチェーン技術による配送履歴の改ざん防止や自動決済、さらには複数の物流事業者が連携し配送情報を共有するプラットフォームの構築などが期待されています。

ラストワンマイルの課題解決に向けたこれらの取り組みは、物流業界全体の効率化やサービス向上だけでなく、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現にも大きく貢献します。高効率な配送サービスが実現すれば、これまでECでの対応が難しかった生鮮食品などの物流が活性化し、地方創生にも繋がる可能性を秘めていると言えるでしょう。EC物流の未来は、ラストワンマイルにおけるAIとテクノロジーの進化に託されているのです。

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