目次 ドローンはEC物流問題解決の切り札になり得るのか ドローン活用が注目される背景 ドローン活用の主なメリット 広範な活用に向けた課題と懐疑的な見方 国内外の導入事例と実証実験 今後の展望と持続可能な物流へのアプローチ ドローンはEC物流問題解決の切り札になり得るのか EC物流におけるドローンの活用は、物流業界が直面する課題、特に「2024年問題」や増加する宅配需要への対応策として大きな注目を集めています。しかし、その実現性については様々な意見があり、期待と同時に多くの課題も指摘されています。 ドローン活用が注目される背景 EC市場の拡大に伴い、宅配便の取扱個数は増加の一途を辿っています。2022年のECを通じた宅配便個数は推定で約40億個に達しており、2030年にはさらに17億個増加し、合計で約57億個に達すると予測されています。このような状況下で、物流業界は「2024年問題」をいまだ抱え、ドライバー不足や再配達率の高さといった課題に直面しており、ドローンがこれらの問題解決の「切り札」として期待されています。 法整備の面では、2022年12月に改正航空法が施行され、有人地帯でのドローンの目視外飛行、いわゆる「レベル4」が解禁されました。これにより、一般住宅街でもドローンが目視外で飛行できるようになり、ラストワンマイル配送におけるドローン活用の機運が高まっています。 ドローン活用の主なメリット 物流におけるドローンの活用には、以下のようなメリットが挙げられます。 • 配送時間の短縮 空中を飛行するため、交通渋滞の影響を受けず、陸上輸送よりも迅速な配送が可能です。医薬品などの緊急性の高い商品や、山間部・離島など交通の便が悪い地域への生活必需品の配送、災害時の支援物資輸送に特に有効とされています。 • 燃料費の削減と環境負荷の軽減 配送ルートの最適化により、燃料費を削減し、環境負荷を軽減できる可能性があります。 • 省人化 遠隔操作や自動操縦により、配送や倉庫作業における省人化が可能となり、労働力不足への対応策として期待されます。 • 倉庫内業務の効率化 在庫管理や棚卸し、高所点検、倉庫内の監視など、情報収集・作業支援にも活用でき、効率化と作業精度の向上が期待されています。特に在庫管理では、人が行う作業と比較して大幅な時間短縮と精度向上を実現した事例もあります。 広範な活用に向けた課題と懐疑的な見方 一方で、ドローンの広範な実用化、特に都市部での大規模なラストワンマイル配送については、JECCICAの客員講師である本谷知彦氏が懐疑的な見方を示しています。 例えば、2030年の宅配便増加分17億個のうち3割(5億個)をドローンが担うと仮定した場合、全国で1日あたり約137万個、東京23区だけでも1時間あたり1万台以上のドローンが空を飛び交うことになります。このような状況を想定すると、以下のような複数の課題が浮上します。 • 衝突および落下時の損害リスク 多数のドローンが飛行することで、ドローン同士や建物等への衝突、さらには落下による人体や家屋、器物への損害リスクが考えられます。 • 受け取り方法 集合住宅のベランダやバルコニーへの着陸スペース確保が難しく、受取人への通知方法(ドローンはピンポンを押せない)や、誤配送・盗難のリスクも課題となります。 • 運用体制と人材育成 完全自動運行でない限り人による操作が必要であり、安全に操作できる高度な技量を持つ人材の大量育成は容易ではありません。 • エネルギー面と騒音問題 大量の宅配用ドローンが稼働した場合の電力消費やエネルギーコストが懸念されます。また、1時間に1万台以上が飛行するとなると、その騒音も大きな問題となる可能性があります。 • 再配達 既存の宅配便で再配達率が11.8%と高い水準にあるように、ドローンでも再配達は必ず発生するでしょう。再配達時の手順(ドローンを再利用するか、自動車に切り替えるか)を考える必要があります。 • 技術的課題 積載能力、測位精度、航続距離(バッテリー性能)、自律飛行能力のさらなる向上が必要です。 • インフラ整備 離着陸・充電・荷物の積み下ろしができる専用拠点(ドローンポート)や、高度な空域管理システムの構築・整備が不可欠です。 • 社会からの受容 騒音やプライバシー侵害への懸念から、ドローン技術に対する社会的な信頼性を高める必要がありま 国内外の導入事例と実証実験 これらの課題がある中でも、ドローンを活用した実証実験やサービス導入は国内外で進められています。 ①国内事例 ・佐川急便など4者による「ドローン配送プロジェクト」は、東京都青梅市で1人の運航指示者が異なる2ルートを2機同時に飛行させる実証実験を実施しました。 国際ドローン協会は千葉県東庄町と共同で、買い物困難者支援としてドラッグストアから個人宅へ日用品(約25kgの生活必需品や食品、卵など)を配送する実証実験を行い、自動車で20分かかるルートをドローンで9分30秒で配送することに成功しました。 ・埼玉県秩父市では、コンビニエンスストアチェーンとドローン事業者によるラストワンマイル配送の実証実験が行われており、中山間地の配送効率向上を目指しています。 国土交通省の事業支援により、全国各地で日用品、食品、医薬品などの配送分野での実証実験が活発に行われています。 ②海外事例 ・Amazonは「Prime Air」としてドローン配送サービスの構想を発表し、米国でサービス提供を開始しています ・Walmartもドローン配送サービスを展開しており、2025年6月時点で約15万件の配送を行っています。 ・中国の食品宅配大手である美団(Meituan)はドローンポートの設置も並行して進め、2024年12月末時点で累計約50万件の配送実績があります。 ・IKEAは、欧州や米国の倉庫でドローンを導入し、自律型AIを活用して在庫管理の効率化を進めています(2024年8月時点で9カ国73拠点で250機以上導入)。 今後の展望と持続可能な物流へのアプローチ ドローンは、バッテリー技術の発展やAIを活用した自律飛行技術の高度化、センサー技術の進歩による障害物回避能力の向上など、技術面・運用面での進歩を続けています。また、政府による規制緩和や法整備の進展もドローン物流の実用化を後押ししており、国内のドローンおよび配送ロボットを活用した物流市場は、2030年度に198億3000万円に達すると予測されています。 結論として、ドローンは山間部や離島などへの配送、およびBtoB物流においては非常に有益な手段となるでしょう。また、物流倉庫内での活用も効率化に貢献しています。しかし、都市部のラストワンマイル配送において、ドローンを「物流問題解決の切り札」と捉えるには、現実的な課題が多すぎると考える向きもあります。 物流業界の「2024年問題」以降、ドローン活用については漠然としたイメージだけでなく、具体的なデータと運用イメージに基づいた議論が求められています。又、置き配、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)、カーブサイドピックアップ、ギグワーカーによる配送など、ドローン以外の現実的な解決策の推進も重要視されています 関連記事 【物流AIシリーズ】ドローンはEC物流問題解決の切り札になり得るのか 【物流AIシリーズ】EC物流の未来を切り拓くAI――配送現場の進化とその先にあるもの 【物流AIシリーズ】事例②アスクルが描くEC物流DXの未来 小ロットEC物流の進化と今後の展望:コスト削減と効率化を実現する新しい物流ソリューション