日本郵船/生き物の天気図を示すオープンデータ「ANEMONE DB(アネモネデータベース)」の運用開始 物流全般 2023.06.17 “世界初” 環境DNAビッグデータが生物多様性を見える化! 生き物の天気図を示すオープンデータ「ANEMONE DB(アネモネデータベース)」の運用開始 2022年06月02日 バケツ一杯の水から存在する生物の種類や分布が分かる!日本で生まれた調査手法 / 海運会社や市民による継続的な調査体制も確立し、生物多様性回復や漁業等の産業貢献へ 東北大学大学院生命科学研究科日本郵船株式会社近海郵船株式会社南三陸町特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン 環境DNA※1を利用した生物多様性観測ネットワーク「ANEMONE※2(アネモネ)」を主催する、東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生と観測活動に参画してきた日本郵船株式会社と同社グループ会社の近海郵船株式会社、南三陸町、特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパンの4者は、環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータ「ANEMONE DB」をオープンデータとして2022年6月2日から運用を開始することを発表します。 発表のポイント 1 海や川の水から採取した環境DNAを用い、その水域に生息する魚類に関する調査結果を蓄積した環境DNAビッグデータ「ANEMONE DB」をオープンデータとして一般公開(6/2〜)環境DNA調査に関するビッグデータの構築、およびオープンデータとしての一般公開は世界初※3 2 環境DNAのサンプリング範囲の拡大とデータ拡充に向けた活動計画・日本郵船、近海郵船の営業航路上での海水サンプリングを今夏から月1回のペースで実施・アースウォッチ・ジャパンは2022年度:50地点、2023年度:100地点で市民調査を実施 3 宮城県南三陸町では温暖化による魚類生態調査で活用。志津川湾での南方性種出現の検知へ 4 運営母体として「ANEMONEコンソーシアム」を設立。環境DNAの利活用を幅広く社会啓発 「ANEMONE DB」参照サイト・トップ画面 海水サンプリングを行う近海郵船の運航船「ましう」 「ANEMONE DB」運用開始の背景 近年において人間活動による生物多様性の喪失が進む一方で、自然環境を回復基調に乗せようとするネイチャーポジティブ※4の国際的な潮流が拡がっています。しかしながら、自然の現状を把握する生物調査には膨大な労力や費用がかかるなど、捕獲に頼る従来の手法から、幅広い範囲を効率的に調査する手法を確立することが長年の課題でした。環境DNAは、「バケツ一杯の水」から存在する生物の種類や分布が分かる革新的な生物調査で、その手法※5は日本で開発されました。ANEMONE DBは、日本で確立された環境DNAによるデータベースで“生き物の天気図“として幅広い業界での利活用が期待されています。2017年から研究者と市民ボランティア約200名が全国861地点、4,298回に渡り実施してきた環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータとして構築されてきました。このデータベースは、当初より東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生氏の統括のもとで開発・運用され、充分なデータが蓄積されたことから2022年6月2日からオープンデータとして一般に公開します。環境DNA調査データを蓄積した専用データベースの構築、およびオープンデータとして一般公開されることは世界初となります。 <環境DNA分析結果 閲覧画面>DNAが検出された魚種(学名)が表示。検出量に応じた大きさで表示される仕様 ANEMONE DBの概要 名称・運用開始時期 ANEMONE DB(アネモネ データベース)2022年6月2日(木)正午〜一般公開開始 観測ネットワーク 全国大学、国立研究所、行政・企業有志の参加する環境DNA観測ネットワーク(東北大学 近藤氏の主導のもと、筑波大学、かずさDNA研究所とも連携) 観測実績(2019年から実施) 調査実施地点:861箇所、調査回数:4,298回、検出魚種:885種上記の内、77地点では定点観測を実施(55沿岸、18河川、4湖沼) 主な観測成果 ANEMONE観測網により広域生態系変動が「見える化」された成果(ANEMONE DB試用段階にて)・温暖化影響で生物分布の北上や漁場の変化・日本沿岸魚種の北上・回遊変化という広域変動を捉えるのに成功・高精度、解像度の生態系ビッグデータの水産資源管理での有用性を実証 想定される用途 ・生物多様性の回復に向けた自然再生活動の効果確認や自然保護区選定の基盤データ・新たな漁場の発見や水産資源の持続可能な利用を促進するためのAI構築用データ・自然のバランスの科学的解明に利用される基礎データ 直近における活動計画(6/2共同記者会見で発表したポイント) 環境DNAのサンプリングや「ANEMONE DB」の利活用において、当初から活動に参画している企業・団体では以下の活動を計画しています。今後も様々な企業・団体と連携していきながら活動領域を拡げていく方針です。 <環境DNAのサンプリング調査やデータベースの利活用に向けた活動計画> ①日本郵船グループ(日本郵船株式会社、近海郵船株式会社)日本郵船株式会社は2021年に東北大学、北海道大学と共に世界で初の試みとなる外洋での環境DNA観測を試験的に実施し、158魚種のDNAを検出することに成功しました。日本郵船グループは今後も以下の調査活動を計画し、「ANEMONE DB」のデータ拡充と調査範囲の拡大に貢献していく方針です。 活動区分 日本近海における海水サンプリング(外洋の海水から環境DNAを取得) 活動概要 日本郵船株式会社のグループ会社「近海郵船株式会社」の営業航路を活用し、常陸那珂港(茨城県)〜苫小牧港(北海道)間を航行する定期船「ましう」にて海水サンプリングを実施。サンプリングした海水は北海道大学に提供。分析結果を「ANEMONE DB」にて公開。 実施時期 2022年夏から実施予定。海水サンプリングは月1回の頻度での実施を予定。1回あたりの海水サンプリング量は約30リットルの予定。 備考 「ましう」船舶概要…総トン数:11,229t、全長:179.90m、サービス速力:23.0ノット航路…常陸那珂港〜苫小牧港:航海時間(片道)約20時間 ② 特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパンアースウォッチ・ジャパンでは、学識経験者・行政・企業・市民ボランティアとの協業により、2020年度から環境DNAのサンプリング調査に協力。昨年度(2021年度)は全国41箇所で調査を行い調査範囲の拡大とデータ蓄積に貢献してきました。調査活動は今後も拡大する計画です。 活動区分 市民ボランテイアによる全国一斉環境DNA調査(全国の沿岸域調査から環境DNAを取得) 活動概要 近藤倫生氏(東北大学大学院 教授)を始めとした学識経験者や株式会社カカクコムの協賛により、2020年度から継続的な調査を実施中。一般市民でも簡単に環境DNAの採取が可能な独自の調査キットも導入し、幅広い市民が参加している。 実施時期 2022年7-8月に全国50箇所、約100名の市民ボランティアによる一斉調査を計画。分析結果は参加者とも共有し、生物多様性への理解を深める啓発活動も実施予定。2023年度は100箇所以上での海水サンプリング調査を予定している。 備考 全国一斉環境DNA調査は、以下の学識経験者の支援も受けて実施している。笠井亮秀氏(北海道大学大学院水産科学研究院・教授)、益田玲爾氏(京都大学フィールド科学教育研究センター・教授)、清野聡子氏(九州大学大学院工学研究院・准教授) ③南三陸町(宮城県)南三陸町の沿岸に広がる志津川湾では、近年、地球温暖化の影響により魚種の回遊変化が確認され始めています。具体的には、本来であれば南方性種となる「アイゴ」が北上し志津川湾に出現。養殖されているワカメがアイゴによって切り取られるなどの被害も懸念されています。南三陸町では、回遊変化等の現状把握と対策検討において「ANEMONE DB」を活用していく方針です。また、日本全国の環境DNAデータベースが、地域の漁業現場でも有効に活用されていくと考えていることから、率先して利活用を推進しています。 コンソーシアムの設立と今後の活動方針について 「ANEMONE DB」の運営体制を強化することや、ネイチャーポジティブな考え方の社会啓発に向けて「ANEMONEコンソーシアム」を2022年6月1日に設立しました。今後はこのコンソーシアムが主体となり、ANEMONE DBの利活用を推進するセミナー等の啓発活動や、ワーキンググループ等の立ち上げにより、専門的な知見の共有も展開していく方針です。幅広い業界や市民に対する啓発活動を通じて「ANEMONEコンソーシアム」は、 今年度末( 2023 年3月末)までに 100 企業/団体の規模に拡大する計画を掲げています。 「ANEMONEコンソーシアム」の概要 名称・発足日 ANEMONEコンソーシアム(英語名:ANEMONE Consortium)発足日:2022年6月1日(水)Webサイト https://db.anemone.bio/ 代表者 東北大学大学院生命科学研究科 教授:近藤 倫生(こんどう みちお) 本部所在地 仙台市青葉区荒巻字青葉6-3 東北大学大学院生命科学研究科 共通理念と目的 共通理念:高度な生物多様性情報を活用した自然共生社会の実現目的①:ネイチャーポジティブの達成に向けた取り組み目的②:環境DNA技術の発展と普及目的③:ANEMONE DBの基盤確立 発起メンバー順不同全13社・団体、個人4名 東北大学、特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン、日本郵船株式会社、東北緑化環境保全株式会社、株式会社カカクコム、一般社団法人日本生態学会、一般社団法人環境DNA学会、一般社団法人サスティナビリティセンター、公益財団法人かずさDNA研究所、日本長期生態学研究ネットワーク [JaLTER]、マリンバイオ共同推進機構 [JAMBIO]、神奈川県環境科学センター、南三陸町 [宮城]、中村圭吾(公益財団法人リバーフロント研究所・主席研究員)、今藤夏子(国立環境研究所・生物多様性領域主任研究員)、西廣淳(国立環境研究所・気候変動適応センター室長)、堀正和(国立研究開発法人水産研究・教育機構・グループ長) ※1: 環境DNAとは水中や土壌中など環境中に存在する生物由来のDNA(デオキシリボ核酸)を指す。生物はフンや粘液などと一緒に自らのDNAの痕跡を環境中に残す。野外で採取した水や土壌などから生物由来DNAを抽出、分析することでそこに住む生物の種類を知る技術(環境DNA技術)が近年になって大きく発展した。捕獲や直接観察に頼る従来の生物調査法に比べて、調査現場での作業が圧倒的に少ないことから、従来の調査法では容易ではなかった多地点、高頻度での生物調査を実現する画期的な方法として注目されている。 ※2: ANEMONE(All Nippon eDNA Monitoring Network)は環境DNAを利用した生物多様性観測のネットワーク。環境DNAの主要技術を生んだ大型プロジェクト研究「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発(近藤倫生 代表;JST CREST制度による)」において2017年より実施された全国沿岸での環境DNA調査を前身とし、2019年からは東北大学・筑波大学・かずさDNA研究所が中心となって、全国の大学や国立研究所、行政機関、市民ボランティアの協力のもと日本全国の沿岸や河川、湖沼等をカバーする環境DNA調査を実施している。77の観測ステーションでの定期観測に加えて、2020年からは市民ボランティアによる調査も実施され、約200名もの市民が参加して146サイトでの調査を実施。2017年よりこれまでの調査総数は4,298回、検出された魚種は885種類にのぼる。 ※3: 近藤教授およびANEMONE関係者の調査による ※4: 生物多様性の毀損を抑止するために自然環境等を増やしていく活動や考え方 ※5: 環境DNA調査で用いられるMiFish法(魚類を対象とした網羅的解析法)は日本で開発された。 「ANEMONE DB」に関わる各社・団体 代表者のコメント 生態系・生物多様性の劣化は進行し、すぐにでも対処すべき世界共通の課題となりました。我が国は豊かな自然の恵みを受けて発展し文化を育んできました。私たちは、自然に恵まれた一次産業の中心であるこの東北の地に生物多様性情報を集積し、誰もが利用できるように公開し、さらに産官学民が互いに支え合い連携することでこの貴重なデータの自然のための活用を推進していきたいと考えています。私たち人間は、片足を自然に、片足を社会において生存・生活しています。この人間の拠り所である自然と社会が互いの豊かさを支え合うことができる仕組みづくりに貢献していきたいと考えます。ANEMONEコンソーシアム 代表東北大学大学院生命科学研究科 教授:近藤 倫生 日本郵船グループはESGを経営戦略に統合し、社会課題の解決に向けた様々な取り組みを継続、加速させています。その取り組みの一つである「海への恩返し」は、日本を含む世界の海で事業を展開している当社グループが果たすべき重要な使命と考えており、当社グループの運航船が海洋環境の未知を解明する基礎研究に貢献できることを大変光栄に思います。当社グループはANEMONEコンソーシアムの一員として、皆様と共にネイチャーポジティブな自然共生社会の実現を目指します。日本郵船株式会社 執行役員:髙橋 正裕近海郵船株式会社 常務取締役:遠藤 剛 南三陸町は、森里海の恵みの多い自然豊かな町です。しかし近年、地球温暖化の影響が、水産の現場にも見られるようになり、例えば主力魚種であるシロザケの水揚げは壊滅的なまでに落ち込んでしまいました。変化に向き合い、いち早く対応することが求められています。そのためには、生態系の変化をとらえる継続的なモニタリングが不可欠です。誰もが簡便な方法で取り組める環境DNA調査には、大きな期待をしており、当町が目指す「自然と共生するまち」の実現のため、引き続き、調査の実施とデータ提供に協力して参ります。南三陸町長:佐藤 仁 アースウォッチは本コンソーシアムの中で、市民ボランティアを募集し、調査のやり方やキットの使い方を伝える役割を担当しています。今回、市民自身が選んだ139の地点において、632種もの魚種が同定(種名を突き止めること)されました。この成果は市民が海洋の生物多様性に関する科学的データを得る上で大きな力となりうることを示しており、SDGsの達成に向けた市民参加の成功例と言えるでしょう。(調査にカカクコム社のご支援を頂きました)特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン理事長:浦辺 徹郎 < ANEMONE DB 主催者/ ANEMONE コンソーシアム代表者のプロフィール>東北大学大学院生命科学研究科 教授: 近藤 倫生(こんどう みちお)2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。龍谷大学講師・准教授・教授を経て、2018年より現職。環境DNA学会会長、日本生態学会理事、個体群生態学会理事。日本生態学会宮地賞(2004年)、Akira Okubo Prize(2011, 日本数理生物学会・Society for Mathematical Biology)、文部科学大臣表彰若手科学者賞(2013)等受賞。
2022年06月02日 バケツ一杯の水から存在する生物の種類や分布が分かる!日本で生まれた調査手法 / 海運会社や市民による継続的な調査体制も確立し、生物多様性回復や漁業等の産業貢献へ 東北大学大学院生命科学研究科日本郵船株式会社近海郵船株式会社南三陸町特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン 環境DNA※1を利用した生物多様性観測ネットワーク「ANEMONE※2(アネモネ)」を主催する、東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生と観測活動に参画してきた日本郵船株式会社と同社グループ会社の近海郵船株式会社、南三陸町、特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパンの4者は、環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータ「ANEMONE DB」をオープンデータとして2022年6月2日から運用を開始することを発表します。 発表のポイント 1 海や川の水から採取した環境DNAを用い、その水域に生息する魚類に関する調査結果を蓄積した環境DNAビッグデータ「ANEMONE DB」をオープンデータとして一般公開(6/2〜)環境DNA調査に関するビッグデータの構築、およびオープンデータとしての一般公開は世界初※3 2 環境DNAのサンプリング範囲の拡大とデータ拡充に向けた活動計画・日本郵船、近海郵船の営業航路上での海水サンプリングを今夏から月1回のペースで実施・アースウォッチ・ジャパンは2022年度:50地点、2023年度:100地点で市民調査を実施 3 宮城県南三陸町では温暖化による魚類生態調査で活用。志津川湾での南方性種出現の検知へ 4 運営母体として「ANEMONEコンソーシアム」を設立。環境DNAの利活用を幅広く社会啓発 「ANEMONE DB」参照サイト・トップ画面 海水サンプリングを行う近海郵船の運航船「ましう」 「ANEMONE DB」運用開始の背景 近年において人間活動による生物多様性の喪失が進む一方で、自然環境を回復基調に乗せようとするネイチャーポジティブ※4の国際的な潮流が拡がっています。しかしながら、自然の現状を把握する生物調査には膨大な労力や費用がかかるなど、捕獲に頼る従来の手法から、幅広い範囲を効率的に調査する手法を確立することが長年の課題でした。環境DNAは、「バケツ一杯の水」から存在する生物の種類や分布が分かる革新的な生物調査で、その手法※5は日本で開発されました。ANEMONE DBは、日本で確立された環境DNAによるデータベースで“生き物の天気図“として幅広い業界での利活用が期待されています。2017年から研究者と市民ボランティア約200名が全国861地点、4,298回に渡り実施してきた環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータとして構築されてきました。このデータベースは、当初より東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生氏の統括のもとで開発・運用され、充分なデータが蓄積されたことから2022年6月2日からオープンデータとして一般に公開します。環境DNA調査データを蓄積した専用データベースの構築、およびオープンデータとして一般公開されることは世界初となります。 <環境DNA分析結果 閲覧画面>DNAが検出された魚種(学名)が表示。検出量に応じた大きさで表示される仕様 ANEMONE DBの概要 名称・運用開始時期 ANEMONE DB(アネモネ データベース)2022年6月2日(木)正午〜一般公開開始 観測ネットワーク 全国大学、国立研究所、行政・企業有志の参加する環境DNA観測ネットワーク(東北大学 近藤氏の主導のもと、筑波大学、かずさDNA研究所とも連携) 観測実績(2019年から実施) 調査実施地点:861箇所、調査回数:4,298回、検出魚種:885種上記の内、77地点では定点観測を実施(55沿岸、18河川、4湖沼) 主な観測成果 ANEMONE観測網により広域生態系変動が「見える化」された成果(ANEMONE DB試用段階にて)・温暖化影響で生物分布の北上や漁場の変化・日本沿岸魚種の北上・回遊変化という広域変動を捉えるのに成功・高精度、解像度の生態系ビッグデータの水産資源管理での有用性を実証 想定される用途 ・生物多様性の回復に向けた自然再生活動の効果確認や自然保護区選定の基盤データ・新たな漁場の発見や水産資源の持続可能な利用を促進するためのAI構築用データ・自然のバランスの科学的解明に利用される基礎データ 直近における活動計画(6/2共同記者会見で発表したポイント) 環境DNAのサンプリングや「ANEMONE DB」の利活用において、当初から活動に参画している企業・団体では以下の活動を計画しています。今後も様々な企業・団体と連携していきながら活動領域を拡げていく方針です。 <環境DNAのサンプリング調査やデータベースの利活用に向けた活動計画> ①日本郵船グループ(日本郵船株式会社、近海郵船株式会社)日本郵船株式会社は2021年に東北大学、北海道大学と共に世界で初の試みとなる外洋での環境DNA観測を試験的に実施し、158魚種のDNAを検出することに成功しました。日本郵船グループは今後も以下の調査活動を計画し、「ANEMONE DB」のデータ拡充と調査範囲の拡大に貢献していく方針です。 活動区分 日本近海における海水サンプリング(外洋の海水から環境DNAを取得) 活動概要 日本郵船株式会社のグループ会社「近海郵船株式会社」の営業航路を活用し、常陸那珂港(茨城県)〜苫小牧港(北海道)間を航行する定期船「ましう」にて海水サンプリングを実施。サンプリングした海水は北海道大学に提供。分析結果を「ANEMONE DB」にて公開。 実施時期 2022年夏から実施予定。海水サンプリングは月1回の頻度での実施を予定。1回あたりの海水サンプリング量は約30リットルの予定。 備考 「ましう」船舶概要…総トン数:11,229t、全長:179.90m、サービス速力:23.0ノット航路…常陸那珂港〜苫小牧港:航海時間(片道)約20時間 ② 特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパンアースウォッチ・ジャパンでは、学識経験者・行政・企業・市民ボランティアとの協業により、2020年度から環境DNAのサンプリング調査に協力。昨年度(2021年度)は全国41箇所で調査を行い調査範囲の拡大とデータ蓄積に貢献してきました。調査活動は今後も拡大する計画です。 活動区分 市民ボランテイアによる全国一斉環境DNA調査(全国の沿岸域調査から環境DNAを取得) 活動概要 近藤倫生氏(東北大学大学院 教授)を始めとした学識経験者や株式会社カカクコムの協賛により、2020年度から継続的な調査を実施中。一般市民でも簡単に環境DNAの採取が可能な独自の調査キットも導入し、幅広い市民が参加している。 実施時期 2022年7-8月に全国50箇所、約100名の市民ボランティアによる一斉調査を計画。分析結果は参加者とも共有し、生物多様性への理解を深める啓発活動も実施予定。2023年度は100箇所以上での海水サンプリング調査を予定している。 備考 全国一斉環境DNA調査は、以下の学識経験者の支援も受けて実施している。笠井亮秀氏(北海道大学大学院水産科学研究院・教授)、益田玲爾氏(京都大学フィールド科学教育研究センター・教授)、清野聡子氏(九州大学大学院工学研究院・准教授) ③南三陸町(宮城県)南三陸町の沿岸に広がる志津川湾では、近年、地球温暖化の影響により魚種の回遊変化が確認され始めています。具体的には、本来であれば南方性種となる「アイゴ」が北上し志津川湾に出現。養殖されているワカメがアイゴによって切り取られるなどの被害も懸念されています。南三陸町では、回遊変化等の現状把握と対策検討において「ANEMONE DB」を活用していく方針です。また、日本全国の環境DNAデータベースが、地域の漁業現場でも有効に活用されていくと考えていることから、率先して利活用を推進しています。 コンソーシアムの設立と今後の活動方針について 「ANEMONE DB」の運営体制を強化することや、ネイチャーポジティブな考え方の社会啓発に向けて「ANEMONEコンソーシアム」を2022年6月1日に設立しました。今後はこのコンソーシアムが主体となり、ANEMONE DBの利活用を推進するセミナー等の啓発活動や、ワーキンググループ等の立ち上げにより、専門的な知見の共有も展開していく方針です。幅広い業界や市民に対する啓発活動を通じて「ANEMONEコンソーシアム」は、 今年度末( 2023 年3月末)までに 100 企業/団体の規模に拡大する計画を掲げています。 「ANEMONEコンソーシアム」の概要 名称・発足日 ANEMONEコンソーシアム(英語名:ANEMONE Consortium)発足日:2022年6月1日(水)Webサイト https://db.anemone.bio/ 代表者 東北大学大学院生命科学研究科 教授:近藤 倫生(こんどう みちお) 本部所在地 仙台市青葉区荒巻字青葉6-3 東北大学大学院生命科学研究科 共通理念と目的 共通理念:高度な生物多様性情報を活用した自然共生社会の実現目的①:ネイチャーポジティブの達成に向けた取り組み目的②:環境DNA技術の発展と普及目的③:ANEMONE DBの基盤確立 発起メンバー順不同全13社・団体、個人4名 東北大学、特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン、日本郵船株式会社、東北緑化環境保全株式会社、株式会社カカクコム、一般社団法人日本生態学会、一般社団法人環境DNA学会、一般社団法人サスティナビリティセンター、公益財団法人かずさDNA研究所、日本長期生態学研究ネットワーク [JaLTER]、マリンバイオ共同推進機構 [JAMBIO]、神奈川県環境科学センター、南三陸町 [宮城]、中村圭吾(公益財団法人リバーフロント研究所・主席研究員)、今藤夏子(国立環境研究所・生物多様性領域主任研究員)、西廣淳(国立環境研究所・気候変動適応センター室長)、堀正和(国立研究開発法人水産研究・教育機構・グループ長) ※1: 環境DNAとは水中や土壌中など環境中に存在する生物由来のDNA(デオキシリボ核酸)を指す。生物はフンや粘液などと一緒に自らのDNAの痕跡を環境中に残す。野外で採取した水や土壌などから生物由来DNAを抽出、分析することでそこに住む生物の種類を知る技術(環境DNA技術)が近年になって大きく発展した。捕獲や直接観察に頼る従来の生物調査法に比べて、調査現場での作業が圧倒的に少ないことから、従来の調査法では容易ではなかった多地点、高頻度での生物調査を実現する画期的な方法として注目されている。 ※2: ANEMONE(All Nippon eDNA Monitoring Network)は環境DNAを利用した生物多様性観測のネットワーク。環境DNAの主要技術を生んだ大型プロジェクト研究「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発(近藤倫生 代表;JST CREST制度による)」において2017年より実施された全国沿岸での環境DNA調査を前身とし、2019年からは東北大学・筑波大学・かずさDNA研究所が中心となって、全国の大学や国立研究所、行政機関、市民ボランティアの協力のもと日本全国の沿岸や河川、湖沼等をカバーする環境DNA調査を実施している。77の観測ステーションでの定期観測に加えて、2020年からは市民ボランティアによる調査も実施され、約200名もの市民が参加して146サイトでの調査を実施。2017年よりこれまでの調査総数は4,298回、検出された魚種は885種類にのぼる。 ※3: 近藤教授およびANEMONE関係者の調査による ※4: 生物多様性の毀損を抑止するために自然環境等を増やしていく活動や考え方 ※5: 環境DNA調査で用いられるMiFish法(魚類を対象とした網羅的解析法)は日本で開発された。 「ANEMONE DB」に関わる各社・団体 代表者のコメント 生態系・生物多様性の劣化は進行し、すぐにでも対処すべき世界共通の課題となりました。我が国は豊かな自然の恵みを受けて発展し文化を育んできました。私たちは、自然に恵まれた一次産業の中心であるこの東北の地に生物多様性情報を集積し、誰もが利用できるように公開し、さらに産官学民が互いに支え合い連携することでこの貴重なデータの自然のための活用を推進していきたいと考えています。私たち人間は、片足を自然に、片足を社会において生存・生活しています。この人間の拠り所である自然と社会が互いの豊かさを支え合うことができる仕組みづくりに貢献していきたいと考えます。ANEMONEコンソーシアム 代表東北大学大学院生命科学研究科 教授:近藤 倫生 日本郵船グループはESGを経営戦略に統合し、社会課題の解決に向けた様々な取り組みを継続、加速させています。その取り組みの一つである「海への恩返し」は、日本を含む世界の海で事業を展開している当社グループが果たすべき重要な使命と考えており、当社グループの運航船が海洋環境の未知を解明する基礎研究に貢献できることを大変光栄に思います。当社グループはANEMONEコンソーシアムの一員として、皆様と共にネイチャーポジティブな自然共生社会の実現を目指します。日本郵船株式会社 執行役員:髙橋 正裕近海郵船株式会社 常務取締役:遠藤 剛 南三陸町は、森里海の恵みの多い自然豊かな町です。しかし近年、地球温暖化の影響が、水産の現場にも見られるようになり、例えば主力魚種であるシロザケの水揚げは壊滅的なまでに落ち込んでしまいました。変化に向き合い、いち早く対応することが求められています。そのためには、生態系の変化をとらえる継続的なモニタリングが不可欠です。誰もが簡便な方法で取り組める環境DNA調査には、大きな期待をしており、当町が目指す「自然と共生するまち」の実現のため、引き続き、調査の実施とデータ提供に協力して参ります。南三陸町長:佐藤 仁 アースウォッチは本コンソーシアムの中で、市民ボランティアを募集し、調査のやり方やキットの使い方を伝える役割を担当しています。今回、市民自身が選んだ139の地点において、632種もの魚種が同定(種名を突き止めること)されました。この成果は市民が海洋の生物多様性に関する科学的データを得る上で大きな力となりうることを示しており、SDGsの達成に向けた市民参加の成功例と言えるでしょう。(調査にカカクコム社のご支援を頂きました)特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン理事長:浦辺 徹郎 < ANEMONE DB 主催者/ ANEMONE コンソーシアム代表者のプロフィール>東北大学大学院生命科学研究科 教授: 近藤 倫生(こんどう みちお)2001年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。龍谷大学講師・准教授・教授を経て、2018年より現職。環境DNA学会会長、日本生態学会理事、個体群生態学会理事。日本生態学会宮地賞(2004年)、Akira Okubo Prize(2011, 日本数理生物学会・Society for Mathematical Biology)、文部科学大臣表彰若手科学者賞(2013)等受賞。