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富士通研究所/運航データを活用して船舶の燃費性能を高精度に推定する技術を開発

グリーン物流(環境) 2023.06.17

運航データを活用して船舶の燃費性能を高精度に推定

東京海洋大学様との共同研究により、実海域で5%以下の誤差で推定し、燃焼消費量も5%削減可能に

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、船舶に関連するビッグデータを活用・解析して、実海域における燃料消費や速度などの船舶性能を5%以下の誤差で高精度に推定する技術を開発しました。

今回開発した技術は、船舶が実際に航海したときの風、波、海流などの気象・海象(注2)のセンシングデータ、船舶エンジンのログデータ、船舶の速度や位置のデータなど大量の実測データについて、富士通研究所独自の高次元統計解析技術を用いて解析・学習し、実海域を航行する際の船舶性能の推定を行うものです。

本研究成果を国立大学法人東京海洋大学(以下、東京海洋大学)様のウェザールーティングシミュレーションに組みこんで評価することにより、最短航路を航海する場合と比較して、従来よりも5%程度の燃費改善が可能であることを確認しました。

本技術により、従来誤差の大きかった実海域での船舶性能が正確に予測でき、船舶の性能評価や設計へのフィードバック、船舶ナビゲーションに応用した大幅な燃費改善などが可能になります。

本技術は、富士通株式会社のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)(以下、Zinrai)」を活用しており、今後さらに実証実験を進めることによって精度を高めていきます。

本技術は、5月19日(木曜日)、20日(金曜日)に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催する「富士通フォーラム2016」に出展します。

開発の背景

船舶業界では、航海が環境に与える影響や航海の経済性・安全性などが大きな課題となっています。2012年には海運が排出する年間CO2排出量は、世界全体のCO2排出量の約3%にあたる約9億トンに達し、国連の専門機関であるIMO(注3)における2013年施行の条約改正にともない、新造船に対してCO2排出規制が導入されています。海運業界では燃料にかかる年間コストが数千億円規模となるケースもあり、燃料費の削減も大きな課題となっています。また、荒天時の運航データを収集・蓄積・解析することにより、安全で経済性の高い船舶の設計や、荒天時の操船に役立てる動きも出ています。

課題

気象・海象に対する船舶の燃費性能が正確に把握できれば、最短経路を通った方が燃費が良いのか、あるいは遠回りをしてでも波・風を避けた方が燃費が良いのかを知ることができます。しかし、これまでの船舶模型を用いた水槽実験と物理モデルシミュレーションによる船舶性能の推定技術では、実際の海域における、船舶の状態と風、波、海流などが複雑に絡み合う状況を考慮できず、予測誤差が大きくなってしまう問題がありました。

開発した技術

今回、船舶ビッグデータについてAI技術「Zinrai」を活用することにより、実海域における船舶性能を5%以下の誤差で高精度に推定する技術を開発しました。

本技術は、富士通研究所独自の高次元統計解析技術を応用して、船舶が実際に航海したときの風、波、海流などの気象・海象のセンシングデータ、船舶エンジンのログデータ、船舶の速度や位置のデータなど様々な実測データを統合した高次元データを解析・学習し、まだ実測データが得られていない気象・海象条件での船舶性能を推定します。

本技術の特長は以下のとおりです。

  1. 実際に運航した海域におけるありのままのデータを用いて解析する技術

    今回、富士通研究所独自の高次元統計解析技術により、船舶が実際に運航したときに得られる実測データをそのまま用いて、気象・海象などの様々な条件の影響を同時にまとめて解析することに成功しました。これにより、水槽実験での人工的なデータではなく、実海域における船舶のありのままのデータに基づいて、風、波、海流などが複雑に絡み合う状況をまるごと考慮した性能推定が行えます。

  2. 実測データを自動的にグループ化し、グループごとに学習の度合いを変化させる技術

    物理モデルでは、例えば、風の弱いときから強いときまで、物理現象を一様に単純化したモデルで表現するため、推定精度を高められませんでした(図1(a))。本技術では、様々な実測データを統合した高次元データについて気象・海象などの状況が類似するものを自動的にグループ化し、それぞれのグループに応じた学習と推定を行います(図1(b))。

    ここで、実測データに合わせすぎて学習すると、まだ運航したことがない、実測データが得られていない条件での推定精度が悪くなる問題が発生することがありますが、これに対し、実測データに合いすぎるグループがないようグループ範囲をそれぞれ自動的に調整することで解決しました。これにより、全領域で万遍なく推定誤差を抑えることが可能となりました。

    図1 物理モデルと開発した技術
    図1 物理モデルと開発した技術

効果

東京海洋大学様と共同研究を行い、東京海洋大学様が持っている実海域における風や波、船の燃料消費量などの運航の実測データに本技術を適用し、船舶の速度性能や燃費性能を誤差5%以下で高精度に推定することに成功しました。本技術を東京海洋大学様のウェザールーティングシミュレーションに組み込むことにより、東京からロサンゼルスまでの北太平洋航路について、本技術による船舶性能に基づき最適航路を運航した場合、最短航路を運航する場合に対して、燃料消費量が5%程度削減でき、燃料費とCO2排出量を大幅に削減できることを確認しました。

本技術は、船舶の設計において、先に開発した船舶の航海データを次の船舶開発にフィードバックすることで、安全かつ燃費性能の高い船舶の設計を実現します。さらに、船舶のメンテナンス前後や、様々な低燃費施策の適用前後の性能変化について定量的に評価できるようになります。

今後

東京海洋大学様との共同研究を通し、さらなる予測精度の改善を行う予定です。また、本技術を様々な船種、航路に適用した実証を行い、位置情報を活用したクラウドサービス「FUJITSU Intelligent Society Solution SPATIOWL (フジツウ インテリジェント ソサエティ ソリューション スペーシオウル)」から2016年度中のサービス提供を目標としています。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 海象:
波、潮汐、海流など海で起きる自然現象の総称。
注3 IMO(International Maritime Organization):
国際海事機関。航海の安全、海運技術の向上などを目指す国連の専門機関。
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