日本気象協会/天気予報で省エネ物流を実現、需要予測の高度化により食品ロスの削減に成功 物流全般 2023.06.17 日本気象協会、天気予報で省エネ物流を実現! ~需要予測の高度化により食品ロスの削減に成功しました~ 一般財団法人 日本気象協会(本社:東京都豊島区、会長:繩野 克彦、以下「日本気象協会」)は、天気予報で物流を変える取り組みとして「需要予測の精度向上による食品ロス削減および省エネ物流プロジェクト」を実施しています。 本プロジェクトでは食品ロスの削減と、返品・返送、回収、廃棄、リサイクルなどで不要に発生している二酸化炭素の5%削減を目指しています。そのために日本気象協会では気象情報やPOSデータなどのビッグデータを解析し、高度な需要予測を行った上でサプライチェーン全体に情報を共有しています。 本プロジェクト2年目の最終報告として、平成27年度の成果を発表します。 なお、本プロジェクトは経済産業省の平成26、27年度の「次世代物流システム構築事業費補助金」(※1)の採択事業です。 「需要予測の精度向上による食品ロス削減および省エネ物流プロジェクト」 2年目(平成27年度)の主な成果 ◆成果1:メーカー(相模屋食料、Mizkan)への実証実験(実運用) ◎ 豆腐:食品ロス約30%の削減 ◎ 冷やし中華つゆ:食品ロス約20%弱の削減 ◆成果2:メーカー(ネスレ日本)と配送会社(川崎近海汽船)との連携 ◎ モーダルシフト(※2)により、貨物1㌧あたり CO2約48%の削減(0.0628 tCO2)→半年でCO2 98.0㌧の削減(※3) ◆成果3:需要予測の高度化 ◎ SNSデータ・POSデータにより 人工知能(AI)技術を用いた消費者の購買行動の解析を実施 平成27年度の成果概要(1) プロジェクトの拡大 2年目となる平成27年度は、本プロジェクトの参加団体数が初年度の9団体から増え、26団体となりました。また、初年度はメーカーの対象商品を3品目に限定していましたが、平成27年度は8品目に拡大しました。さらに人工知能(AI)の研究者の協力なども得て、小売業にて扱う幅広い品目で解析を行いました。 対象商品・エリアを拡大することで、知見やデータを集積し、企業データの解析・考察における相乗効果を生み出すことができました。 平成26年度 平成27年度 参加団体数 9 26 対象商品(メーカー) 3品目 8品目 対象商品 (小売り) - 小売りが扱う全商品 地域 関東 全国 (2) 実証実験の成果ⅰ)メーカーへの実証実験の成果 平成26年度は解析に基づく気象予測の利用により生産活動を効率化できることを確認しましたが、平成27年度は前年度の成果を用いて実際に生産量の調整を行いました。その結果、相模屋食料株式会社(本社:群馬県前橋市、以下「相模屋食料」)の販売する豆腐は食品ロスを約30%削減、株式会社Mizkan(本社:愛知県半田市、以下「Mizkan」)の販売する冷やし中華つゆは約20%弱削減(対前年比)と、気象を利用することにより生産活動の効率化が可能であることを確認しました。 これらの成果は、需要予測情報の精度向上・配信の効果(外的要因)だけでなく、各企業の「気象は需要予測に有用である」ことへの理解が進んだこと(内的要因)により達成されています。 商品 実証実験の成果 豆腐 約30%削減 冷やし中華つゆ 約20%弱削減 ⅱ)メーカーと配送会社との連携による成果 本取り組みの初年度である「平成26年度次世代物流システム構築事業」にて、日本気象協会では気象庁の予測に加え、欧州・中期予報センター(ECMWF)の予測を利用して気象予測精度を向上させることに成功し、2週間先の気温予測情報の提供が可能になりました。 2000年代当初からモーダルシフトを推進してきたネスレ日本株式会社(本社:神戸市、以下「ネスレ日本」)では日本気象協会の気温予測情報利用により綿密な輸送計画と輸送量を早期に決定できるようになり、販売するペットボトルコーヒーをトラックによる陸上輸送から海上輸送へシフトすることができました。 なお、海上輸送では日本気象協会の提供する「内航船向け最適航海計画支援システム(ECoRO)」を利用しており、同じく以前からモーダルシフトを推進している川崎近海汽船株式會社(本社:東京都千代田区、以下「川崎近海汽船」)の船を使用しています。このようにメーカーであるネスレ日本と配送会社である川崎近海汽船が連携した結果、気象情報を使ってCO2排出量削減など、配送の効率化を実現しました。 商品 実証実験の成果 ペットボトルコーヒー モーダルシフトの実現 貨物1トンあたり二酸化炭素約48%削減 半年で二酸化炭素98.0トン削減 (3) 需要予測モデルの高度化の成果 平成27年度は人工知能(AI)技術を用いてPOSデータ、SNSデータ、気象データの解析を行い、需要予測モデルの高度化を進めました。その結果以下の成果が得られました。 ・ 小売店における全商品の売り上げデータと気象の関係を分析することで、今後需要予測を優先的に進めるべきカテゴリー(飲料・鍋物等)が明確になりました。 ・ 人工知能(AI)技術を活用した汎用的な需要予測モデルにより、小売店における来店客数予測の精度が従来の解析手法に比べて約20%向上しました。 ・ Twitterの位置情報付きツイート情報から、人はどのような気象条件の時に「暑い・寒い」と感じるのかを分析し、より商品の需要に直結する、体感的な暑さ・寒さを表す体感気温を作成しました。 次年度(平成28年度)の方針 本プロジェクトが持続可能な取り組みとなるように事業化を目指し、関係性強化と信頼性向上を図ります。 i) 関係性の強化 平成27年度は製造業を中心に実証実験を行ってきましたが、平成28年度は製・配・販の連携を行い、販売計画の共有・季節商品の終売プロセス(※4)の最適化などを行う予定です。 ⅱ)信頼性の向上 平成27年度に開発した人工知能(AI)を用いた需要予測手法をさらに高度化し、小売業の発注業務に生かすなど実際のオペレーションに活用する予定です。 ※1「次世代物流システム構築事業費補助金」 本事業は経済産業省の補助事業で、補助事業者は公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会、間接補助事業者は一般財団法人 日本気象協会などです。わが国の最終エネルギー消費量の約2割を占める運輸部門の省エネルギー対策を進めるため、物流部門などで効率化に向けた先行事業を行い、その成果を幅広く展開することで抜本的な省エネルギー対策を進めることを目的にしています。 ※2 モーダルシフト 二酸化炭素排出量の削減や物流の効率化などの観点から、自動車(トラック)から貨物鉄道や海運へ輸送手段を転換すること。 ※3 削減量は経済産業省・国土交通省の改正省エネ法(経済産業省告示66号およびパンフレット「改正省エネ法の概要」)を参考に算出しています。 ※4 終売プロセス 季節商品において、季節終了時期に発注量を最適化し、販売機会を損なうことなく在庫を調整すること。 資料 ◆背景 食品の物流では一般的に、製・配・販の各社がそれぞれ独自に、気象情報や各社が持つPOS(販売時点情報管理)データなどに基づいて需要予測を行っています。しかし、製・配・販各社が需要予測で用いるデータは十分に共有されているとはいえません。そのため、各流通段階で生産量や注文量にミスマッチ(予測の誤差)が起こり、廃棄や返品ロスなどのムダが生じる一因となっています。 そこで、本プロジェクトでは、日本気象協会が気象情報に加えてPOSデータなどのビッグデータも解析し、高度な需要予測を行った上で製・配・販の各社に提供します。気象情報には、「アンサンブル(集団)予測」(※)を用いた長期予測等も活用し、需要予測の精度をさらに向上させます。これにより、廃棄や返品等を減少させ、不要に発生している二酸化炭素を5%削減することを予定しています。 ※「アンサンブル予測」 ある時刻に少しずつ異なる初期値を多数用意するなどして多数の予報を行い、その平均やばらつきの程度といった統計的な性質を利用して最も起こりやすい現象を予報する手法です。 ◆プロジェクトの実施体制(2016年3月7日時点)実施主体:一般財団法人 日本気象協会事業者【対象商品】:≪メーカー≫ 相模屋食料株式会社(本社:群馬県前橋市) 【豆腐】 株式会社Mizkan(本社:愛知県半田市) 【冷やし中華つゆ・鍋つゆ】 ネスレ日本株式会社(本社:神戸市) 【ペットボトルコーヒー】 キッコーマン食品株式会社(本社:東京都港区) 【そうめんつゆ・そばつゆ】 ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社(本社:名古屋市) 【炭酸飲料】 株式会社伊藤園(本社:東京都渋谷区) 【麦茶】 ≪卸売事業者≫ 国分グループ本社株式会社(本社:東京都中央区) 川崎近海汽船株式會社(本社:東京都千代田区) ≪小売事業者≫ 株式会社ココカラファインヘルスケア(本社:横浜市) 国分グローサーズチェーン株式会社(本社:東京都中央区) 株式会社ローソン(本社:東京都品川区) 株式会社バローホールディングス(本部:岐阜県多治見市) 株式会社カメガヤ(本社:横浜市) 株式会社マルエイ(本社:千葉県市原市) 一般社団法人新日本スーパーマーケット協会(事務局:東京都千代田区) ≪関連事業者≫ サントリービジネスエキスパート株式会社(本社:東京都港区) 株式会社アットテーブル(本社:東京都品川区) 株式会社シグマクシス(本社:東京都港区) 株式会社あおぞら銀行(本店:東京都千代田区) イーシームズ株式会社(本社:大阪市中央区) インフォマティカ・ジャパン株式会社(本社:東京都港区) 株式会社チェンジ(本社:東京都港区) 株式会社サン・プラニング・システムズ(本社:東京都中央区) ≪学術研究機関≫ 国立研究開発法人産業技術総合研究所(東京本部:東京都千代田区) 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(東京都千代田区) 早稲田大学(東京都新宿区) 委員会には下記の学識経験者が加わります。学識経験者: 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授 張 輝 気象庁気候情報課気候リスク対策官 中三川 浩 テクニカルソリューションズ株式会社代表取締役社長 勝呂 隆男 東京都市大学メディア情報学部情報システム学科教授 大谷 紀子